「天使になんてなれなかった」 (レヴィン)



シレジアでは王位継承権をめぐり内乱が起きそうだった。
そんなことは俺の本意じゃない。
巻き込まれる国民がかわいそうだと思った。


国をばかげた権力争いから守りたいと思ってた。
平和の象徴、
天使にだってなれると信じてた。


俺がいなくなれば
ばかげた権力争いをなくせると信じて旅にでた。
カバン一つに夢を詰め込んで。
権力なんて欲しい人間にくれてやる。



そして、旅先でシルヴィアと出会った。
本当の天使のようなあいつと。


シルヴィアは旅の踊り子。
自由気ままな風のような踊り子。
まるで背中に羽があるかのように踊る。

その軽やかで風のような踊りは
天使とシレジアを彷彿させる。
自分がなりたかった天使と、
自分が置き捨てたシレジアを。


シルヴィアは明るく、陽気で、周りにいる人を楽しい気分にさせる。
それこそ俺のなりたかった天使そのもののような気がした。
だから声をかけた。



シレジアから天馬騎士が追ってきた。
自分がいなくなれば権力争いがなくなると信じて出国したのに、
そんなことはなかった。
結局おれは天使になんてなれなかったんだ。
すべては俺のひとりよがり。
まるで道化だ。



シルヴィアに会いたくなった。
何かを求めて。
きっとあいつは答えを知っている。
…なにの答えなのかはわからないけど。

でも
シルヴィアはクロード神父と話をしていた。
先日仲間になったブラギの聖戦士。
その会話が聞こえる。
そして、おれは衝撃を受けた。


シルヴィアはどこまでも自由だ。
でもそれは、
シルヴィアには失うものがなかったから。
財産も肉親も、友人も、帰る故郷さえも。
天使は、孤独。


初めて知った。
でもそれはこんな時代だから
すごくめずらしいことではない。

俺が衝撃を受けたのは
そんなことをシルヴィアから直接知らされたのではなく、
立ち聞きで知ったこと。

あいつはきっと、
尋ねれば誰にでもあっけらかんと答えるのだろう。
つまり、
俺はあいつのことを知ろうとしなかったんだ。


おれはシルヴィアに求めるばかりで、
シルヴィアのことを知ろうとしなかったのではないか。
その事実に気がついた。


その事実に気が付いてから
恐ろしくなった。
いつかシルヴィアが俺から離れていくのではないかと。


あいつに、会いに行こう。
俺の、天使に。


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