「あなたの手から もう一歩」 (フュリー)
突然の質問の応酬に 思わず口からでた彼女を傷つける言葉。 絶対怒ってる。 彼女はただ純粋に私に聞いてきただけかもしれないのに。 彼女の明るいところもうらやましくて、 何度話しかけようとしたか。 でも、そう思うたびに レヴィン様のことが頭によぎって、話しかけれなかった。 自分からは何もできなかった。 彼女から話しかけてくれたというのに、 正直になれない自分が邪魔をした。 結果、彼女を傷つけた。 私、どうすればいいの? 今まで、あんまり人と親しくしたことがないから わからない。 そう、わからないの。 思わずうつむき、 頬をつたう「何か」 もう一歩も動けない。 誰か、助けて。 どのくらいの時がたったのだろうか。 動けないでいる私の前に人影ができた。 「フュリー?」 「…神父さま?」 「ああ、やっぱり」 …何がやっぱりなのだろう? 私の名を呼んだその人はクロード神父。 ブラギの末裔でバルキリーの後継者。 先日、ティルテュ公女と一緒に海賊に襲われているところを お助けしたのだけど、 それ以来、何かと気にかけてくださる。 …クロード様は誰にでもお優しいのだけど。 「貴女に呼ばれたような気がしてやってきたんですよ」 「…わたしに?」 「はい」 そういって、クロードさまは私にライブの杖を手渡す。 …けがなんてしてないのだけれども。 「私、けがなんてしてませんよ」 「それはおかしいですね。 現にあなたは傷ついて飛べないじゃないですか。 ほら、ここを見てください」 クロードさまが指さしたのは、ライブの杖の宝石部分。 そこが優しく光って…。 光が、私に降り注ぐ。 まるですべてに許されたような錯覚。 私は、もう幾千年も光をみていなかったように、 目を細めた。 あたたかい。 なんてあたたかいのだろう。 世界は こんなにも 温かかったのね。 気がつかなかった。 気がつかなかったのではなくて、 見ようとしなかった。 ずっと目隠しの国にいたことに気がついた。 この光をみていると、 外の世界に踏み出すことも恐れずにできそう。 肩の力を抜いてもいいんですよ。 そう言われた気がした。 「もう、飛べますか?」 「…はい。ありがとうございます…」 にっこりと微笑んで、クロードさまは私に手を差し出す。 マーニャ姉さまでも、レヴィン様でもない手。 でも、当然のように差し出された手。 恐る恐るその手をとると クロードさまはゆっくり歩き出した。 一緒に一歩ずつ歩くたびに 凍っていた心が温かくなるのを感じたの。 クロード様は不思議なひと。 つないだ手から勇気がもらえそう。 あの旅の踊り子は いつもこんな光の世界にいたのだろうか。 今度は私からシルヴィアに会いに行こう きっと大丈夫。 |