契約の代償(レヴィン)




契約によって、「おれ」は
レヴィンの意思をもったフォルセティとなったのか、
それとも、
フォルセティの意思を持ったレヴィンとなったのか、
「わたし」にもわからない。

かろうじて鈴の音が「レヴィン」であることを許してくれる。


契約の代償は「俺自身」
レヴィンでいることを禁じられた。
竜の血をもつものと契約を結ぶ、ということは
そのくらい意味をもつ。


・・・シルヴィアがいっていた「ぶつぶつ交換」とはこのことだな、
と思いだして苦笑する。









海岸沿いに、打ち上げられた女の遺体。
わたしは彼女が、崖から飛び降りるのをみていた。
彼女が追われているのも知っていた。


この体を動かし、どれだけ彼女を助けたかったことだろう。
しかし、「契約」が邪魔をした。
生者でも死者でもない狭間の者はこの世のことに
直接関与できない。

生者ではないものがこの世に手出しすることは、
この世の理を壊すことになる。

時が来るまで、そっと見守るしかできない。


そっと、彼女…、シルヴィアを抱きかかえる。
今、ここに横たわるシルヴィアの顔は安らかだ。
まるであの時のようだと思う。
あの時と違うのは、
もう2度とこの瞳が開かない、
ということだけだ。

「シルヴィア…」

決して「よく頑張ったな」とか「ばかだな」とか、
そんな言葉はでてこない。
ただ声になるのは
愛しい人の名前だけ。

名前を呼べば、
その瞳を開けてくれるのではないかという想い。

でもそれは、
叶わぬことだとわかってる。
わかっていながらも
その名を呼ぶ俺は愚か者なのだろうか。

もう一度、その名を呼ぶ。

「シルヴィア」

まるで呪文のように。
もうそれは
意味のないものになってしまったけれど。


もうここにシルヴィアの魂はいない。
風が連れて行った。

「お前は、俺なんかより風に愛されていたんだな」

シルヴィアに俺の頬をすりよせる。
その瞳を開けないかわりに、
ちりん、と鈴が鳴った。

…ような気がした。


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