鈴が知っている(レヴィン)


アルヴィスの城に侵入したまでは良かった。
すべてがうまくいく、と思っていたときに
あいつが現れた。
この世のものではない力を持ったマンフロイが。

そして、俺は「生」というものを失った。


くやしい、とか、生きたい、とか、
そんなことを思う前に浮かんできたのは
あいつの顔。

笑った顔
悲しい顔
拗ねた顔
勝気な顔

俺はいろんなあいつの顔を見てきたんだな、と思ったら
そんなに悪い人生じゃなかったように思えてきた。
…最後がこれで情けないけど。

そんな感傷にひたっていたら
俺の想い出でしかないシルヴィアの顔が険しくなった。

うわっ、怒ってる。
ひでー形相で俺に突っかかってくる。

なにも今際の際にまで怒ったあいつを思い出さなくてもいいだろう、
と自分自身で突っ込みをいれていたら
シルヴィアに胸ぐらをつかまれた。

「ちょっと、レヴィン!!
 あんた、なにやってんの!
 シグルト様のかたき、とるんじゃなかったの?
 これで終わっていいの??」


いいわけ、ないだろ。


藪から棒にそんなことを言われた。
…もっとさ、「頑張ったね」とか「辛かったね」とか
そういう言葉をいえないもんかね、お前?
と自分の想像でしかないシルヴィアにけちをつけた。

ちょっとムッときた。

「じゃあ、あたしの手を取って!
 これで終わりにしたく、ないんでしょ?」

俺はシルヴィアの手をとる。
手を取ったというよりは、ひっぱり寄せた。
シルヴィアを捕まえたと思ったのに、
その感覚はまるで風をつかんだように消えた。

そして、シルヴィアはいなくなり、
あたりには鈴の音が静かに、
でも、はっきりと響いた。







シルヴィアのいたところには
なにもいなくて、かわりに
見渡す限りの世界が広がっていた。

シルヴィアがいなくなったのではなくて、
もう2度と戻ることはないと思っていた俺の意識が、
俺の命がこの世に戻っただけだった。

そして、あいつを掴んだと思っていた手には
シルヴィアから託された鈴がにぎられていた。




最初はわけがわからなかったが、
そのうちどんどんと理解してきた。
俺は…
フォルセティと「契約」したのだということを。


「契約」とは
俺の体をフォルセティのものにするかわりに
俺が生かされるということ。
「レヴィン」と「フォルセティ」、どちらでもない者になったのだ。

鈴は契約の証し。
俺が、「レヴィン」でいられるための物。
俺の想いそのもの。
俺の生きる意思。
フォルセティが俺に残してくれた。

フォルセティめ、
シルヴィアに化けやがって。
うっかり契約しちまったじゃねーか。

でも。
本物のシルヴィアもフォルセティと同じこと言いそうな気がする。
絶対言う。


「シルヴィアにまた怒られそうだな…」

レヴィンとしての意識が
フォルセティの意識に移り変わりつつあるときに思った。

『愛する妻のことくらい、根性で思い出しなさい!』

むちゃくちゃなあいつの言い分が
今はとても愛おしく思う。

わかったよ、シルヴィア。
レヴィンとしての意識は、根性で保つさ。
この鈴がそれを助けてくれる。

『ものに頼るなっ!』

っていうシルヴィアの顔が浮かぶ。
俺は声に出して笑った。


今から俺は、
「だれでもないもの」
生者でもなく、
死者でもない。
狭間の者。


だけど、やっぱり俺は「レヴィン」なんだ。
この鈴がそれを知っている。




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