物々交換(レヴィン)



バーハラでフォルセティの加護があったのか
深手を負いながらも
俺は生き残った。

その後、祖国のシレジアに逃げ伸びた。
さすがにアルヴィスも
一王国には軽々しく攻め込んだりはしてこなかった。

シルヴィアも娘のリーンと一緒にシレジアで過ごすことになった。
慣れない行儀作法に悪戦苦闘しながらも
要領は良くて、ポイントだけ覚えていった。

今、シルヴィアは俺の隣で安らかな顔をして眠っている。
あのバーバラでのことはうそだったかのように平和なひととき。

シルヴィアはもともと明るい笑顔だったが
明るいというより穏やかな笑顔をするようになったと思う。
俺は傷が治るのを待ちながら
ある決意をしていた。
…傷が治らなければいい、と何度も思いながら。

そして一年がたった。


「ねえ、レヴィン、いくの?」

どこに?とは言わない。
きっとシルヴィアは気づいてたのだろう。
俺の秘めていた思いに。
ついにこの日が来てしまったんだ。

「ああ」

「そう…。気をつけてね」

「とめないのか?」

「とめてほしい?」

言葉で答える代りに目を閉じ、
首を横に振る。

とめられたら、
迷いながらもその静止を振り切って
行ってしまう。
そうなると俺は後悔という名の十字架を背負っていかなければならないんだ。
シルヴィアはそれを知ってるから、
あえて引き留めはしない。


「いいよ、行ってきなよ。
 シグルトさまのこと、後悔してるんでしょ?」

「…すまない」

俺はシルヴィアを抱き寄せる。
謝罪と愛しさの気持ちを持って。

俺は今から、
バーハラに乗り込む。

それは危険なかけ。
やるか、やられるか。
でも、残った聖戦士で戦えるのはきっと俺だけ。
やるしか、ないんだ。

「シルヴィア…」

「なに?」

「なにか、お前の持っているもの、俺にくれないか?」

お守りがわりに持っていたい。
天使が持っていたものなら、
きっと祝福されている。
なにより、愛しい人の温もりを感じていたい。

シルヴィアは俺の腕からぬけだして…。

「やーよ」

その気の抜けた返答に一瞬、固まってしまう。

「そんなの、まっぴらごめんよ!
 それみて家族を思い出す、とかだったら
 冗談じゃないわ。
 そんなのがないと家族のこと思い出せないんだったら、
 レヴィン、さいてー。
 思い出したいなら、ものに頼らず胸に焼き付けていきなさいよ
 愛する妻のことぐらい根性で思い出しなさいよ!」

「…」

冗談抜きで本当に拒否された。
俺はあっけにとられた。
…ここはシリアスで
しおらしく持ち物を渡す場面だろーがっ!!


「…でも、あたしのものを欲しい、っていうのは
 嬉しかったから、これ、あげる」

そう言って、シルヴィアは部屋のタンスから箱をだす。
…なぜだろう、
妙にほっとしてしまった。
このまま、手ぶらで放っぽりだされる、と本当に危機感を感じた。

妙な安堵に包まれて手渡された小箱を開ける。
そこには、
小さな鈴。

チリン

「あたしが踊り子してる時につけてた鈴。
 あたしが持っている鈴の中で一番いい音してたから、
 それ、あげる」

「…ありがとう」

「…レヴィンは?」

「えっ?」

「ひとにだけ要求しといて、自分はなし?
 世の中ぶつぶつ交換なのよ。
 レヴィンも何かちょうだいよ!」

思わず口から笑いが飛び出た。
別れの時っていうのに、
シルヴィアは変わらない。

暗い気持ちで出立しようとしていたのに、
シルヴィアには敵わない。

「お前には敵わないな、
 じゃあ、これ、もっててくれ」

シルヴィアに手渡したもの、
それは緑の石。
シルヴィアによく似た色をしていたから、
持っていたもの。

「ありがとう!」

「どういたしまして。
 …じゃあ、いってくるわ」

「うん、気をつけてね!」

まるでちょっと散歩にでも行くようなノリ。
今の気分は悪くはない。
まるですべてがうまくいくような錯覚。


帰ってくるさ、
お前のもとに。

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